経営戦略
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足元では企業収益が改善し、労働需給が逼迫しているにもかかわらず、賃金はなかなか上昇しない。背景には、1990年代以降の長い経済低迷の中で根づいた人件費抑制姿勢を、企業がゆるめていないことがある。人手不足の深刻な中小・零細企業では賃金の引き上げが喫緊の課題だが、本業による収益力が乏しく、人件費支払いのための原資である利益が十分に増えていないことから、人件費の拡大には限界がある。さらに、常に資金繰りに悩まされてきたために、ようやく利益が持ち直している局面においては、急な経営環境の悪化に備え手元資金を厚くしようとする動きが強まっている。
一方、大企業では利益が大きく増加しているものの、先行き不透明感の強い中で成長への期待や確信を持てていないことから社内留保を溜め込もうとし、人件費の拡大に積極的になれないでいる。また、株主重視の姿勢が一段と強まり、稼いだ利益を配当金の支払いに回す動きも増えた。そもそも人件費を拡大させるためには大企業といえども付加価値の一層の拡大が不可欠であるが、そのためには効率的な投資を通じて企業が自律的に成長していく必要がある。
2000年代以降、設備投資が絞り込まれてきたが、成長に必要な人や資本への投資を抑制しているために自縄自縛の状態に追い込まれてしまっている面もある。労働市場が構造的な転換期を迎える今こそ、株主重視に偏り過ぎず、従業員への利益還元の重要性を改めて考え直すことが大切だ。以前のような国内経済の拡大が続かなくなった今、人件費を単なる費用としてではなく成長のための投資ととらえることが、企業に求められていると考えられる。