経営戦略
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長い日本の歴史を振り返って誰でも気がつくことは、日本が外国と積極的に交流し、文化を取り入れ、日本をそれによって変革していこうとした「開国」の時期と、外国との交流に消極的となり、国内の充実に注力する「内向き」の時期が交互に繰り返されてきたという点である。これは日本人の間に「さらなる開国を推進し、グローバル化に積極的に適応していくことこそ日本にとって不可欠とする立場」をとるのか、「グローバル化を無批判に受け入れるのではなく、日本人としての伝統的な価値観やアイデンティティを重視し、国内社会の充実こそ日本の競争力を高めるとする立場」をとるのか、の対立をもたらしてきた。
このような対立は、幕末においては「開国派」と「攘夷派」の対立として存在したし、また、現代日本においても「構造改革派」と「保守派」の対立として存在する。本稿の議論においては、與那覇潤氏の著書『中国化する日本』に刺激を受け、そこで展開されているロジックを追いながら、與那覇氏に倣って「グローバル化の潮流は不可逆的であり、日本が前向きにその潮流に従う方向性」を「中国化」と呼び、逆に、「グローバル化の安易な潮流に乗ることを是とせず、日本独自の文化や価値観を大事にしながら、国際的なプレゼンスを高めるべきだとする方向性」のことを「江戸化」と呼ぶ。そのうえで、日本が「中国化」すべきなのか、「江戸化」を志向すべきなのか、という歴史上お馴染みの問題について、いくつかの論点を提出せんとしたものである。
與那覇氏の主張は大胆に要約すれば、「今から1,000年以上前、中国の宋王朝の時代に成立した政治経済体制は、現代グローバル世界の原型とでも言うべき性格を有しており、実際、日本を含む現代世界は宋王朝の時代に成立した政治経済モデルに収斂しつつある」ということになる。わが日本も、「中国化」という大きな歴史的潮流に逆らうことはできず、これまでの江戸的な「イエに縛られた縦型の人間関係」という特徴を持つ閉じた世界から決別せざるを得ないというのである。
果たしてこの主張は是認しうる主張なのであろうか。これはさまざまな側面から議論を尽くす必要のある問題であり、実は簡単な結論はないというのが本稿の立場なのであるが、以下では與那覇潤氏の議論に依拠しながら、日本史で繰り返し立ち現れてきた、この日本人が避けて通れない問題について私なりの検討を加えたものである。