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震災後の思想地図

2011/10/01

 東日本大震災は日本の転換点になるのだろうか。震災後当初の論壇では、これが明治維新や敗戦に次ぐ歴史の画期になるという意見が多かったが、ショックが薄れるとともに少なくなった。またそうした論調の多くは、震災以前からのその論者の社会変化予測を震災を機に繰り返したもので、思想的な変化があったとは言えない。
 しかし論壇をみていると、明らかな変化もみられる。かつての原発批判は、エコロジー、近代文明批判、経済成長の問い直しという文脈で語られることが多かった。これは1970年代に形成された論調で、経済成長と「一億総中流社会」を前提に、それを批判していたものである。しかしそうした前提が成立しなくなり、かつ再生可能エネルギーの技術的可能性が高まった2000年代半ば以降は、原発は独占企業が国策と癒着して進めている不透明な産業であり、電力自由化と再生可能エネルギーの導入によって、経済成長を行いつつ透明性の向上と脱原発が可能であるという論調が台頭していた。震災を機に、このような論調、すなわち新技術と経済的自由化が、民主化を促進するという「新自由民主主義」が広まっている。こうした「新自由民主主義」は、復興論議においても、官庁が決定権限を握る公共事業中心の従来型復興の非効率性と非民主性を批判するというかたちで、浸透しつつあるようだ。
 60年安保や昭和天皇の死去は、それ自体が歴史の画期になったと言うよりも、従来から起きていた社会と経済の変化がその時期から加速したことによって、結果として高度成長やバブル崩壊といった日本の転換点になった。東日本大震災もまた、そうした意味での転換点になる可能性はある。

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