経営戦略
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5月は連休明けから、世界的規模で新型インフルエンザに注目が集まった。具体的な対策と併せて、目に見えない恐怖に対する不安をどのように解消するか、社会的な心理面での解決策に係る模索と実践が危機管理の領域で現実のものとなった。
これと同じ時期、我が国にとっては今後のあり方を見つめなおす重要な出来事がエネルギーの分野でいくつか起こった。1つは、北朝鮮が地下核実験である。これは原子力という技術利用の影の部分を意識させる出来事であるが、平和利用に注力するべく核拡散防止の重要性を一層鮮明にすることとなった。2つ目は、「日ロ原子力協定調印」である。これは、両国が原子力利用に関して、共通ルールの下で具体的な取り組みを進めるという方向性を確認したものであるが、原子力の平和利用という明の部分を映し出している。
いずれも、我が国と我が国に近い国々との関わりにおける事象であるが、前者は外交政策、あるいは政治的な側面で取り上げられるものであり、本稿では言及を避けるものとする。一方で、後者については、掘り下げていくと、そこには、我が国のエネルギービジネスとしての在り方を、今一度見直す機会をもたらしているということが見てとれる。
エネルギー分野においては、近年、環境への影響低減や二酸化炭素排出抑制を積極的に推進するという最新のエネルギー戦略を先進各国が優先的に採用しているが、その意識的な波及は、石油依存の米国でさえオバマ政権のグリーン・ニューディール政策表明にまで及んでいることは記憶に新しい。さらに注目されることは、それに派生して”原子力ルネッサンス”という言葉も世界的な動きとして注目されている点である。
先進国にキャッチアップしたい国々にとって、経済成長の下支えとなるエネルギーをはじめインフラストラクチャー(社会基盤)の充実は重要かつ喫緊の課題である。とりわけ、最新技術を導入してインフラ整備を行うには、例えば電力エネルギーの場合、環境面への影響を考慮しつつ、エネルギー需要を満たす容量を確保できるという成果が最大化できる選択肢として、原子力発電が大きな位置を占めている。
世界原子力協会(WNA)の最新報告では、新興国をはじめとする43カ国もの国々が新たに導入を計画しており、例えばインドネシア(2010年に建設開始予定)、タイ(2014年に建設開始予定)、アラブ首長国連邦UAE(2020年までに運開を目指す)など地域的にも東南アジア、中東湾岸諸国からアフリカ諸国に至るまで世界的な広がりをみせるという、まさに”ルネッサンス”の様相を呈している。
そのような中、既に発電電力量のおよそ3分の1を原子力発電が占める我が国においても、この”原子力ルネッサンス”の流れを受け、重電、商社各社を中心に海外での新規発電所建設など積極的なビジネス展開を図ろうとしている姿が伺える。ただし、このタイミングに各国の動きやスタンス、翻って我が国の動きをよくみると、これまでと少し違った観点が浮き彫りになってくる。
すなわち、近年になって一層顕著になってきているのが、ファンドの台頭や排出権取引やCDMといった環境分野に見られるビジネス的な動きと呼応する形で、原子力エネルギー分野においても、ビジネスの在り方が変化している点である。特に、原子力分野では膨大かつ広範な技術力を必要とするが、近年では、そういった技術開発競争といった次元や段階を越えて、寧ろ、原子力エネルギーを整備したい国のニーズに応じ、ビジネスとしての営業力が目に見える形で問われている。実際に、日ロ協定を締結する過程で、訪日したロシア側政府団の一員にエネルギー関係の経済界関係者も同行し、我が国における原子力エネルギービジネスの潜在力や可能性を探っている状況である。
他国における原子力エネルギーシステムにおける商品開発や営業展開をみると、発電所建設だけでなく、燃料確保、電力ネットワーク整備、あるいは将来的なリサイクルや処理まで見据え、一貫して取り扱う形でシステムを構築するだけでなく、その上、息の長い人材育成や経済的支援までを担う体系的・総合的なパッケージを、政府と企業が一体となって国家レベルで売り込もうとする様子が伺える。
我が国ではどうか。原子力新設のニーズを持つ国々に対して、最新の技術導入等を含めたビジネスの動きは、三菱重工業=アレバ(仏国)、日立=GE(米国)、東芝=WH(米国)という図式で依然として民間企業ベースであり、しかも各々独自に展開している状況である。かつて我が国においても技術開発領域において、これら3社が共同した事例も存在するが、他国における国家レベルでのビジネス戦略を目の当たりにする度に、我が国の現状は、政府と民間さらに民間連合というナショナル・セールスの基本形が十分整っていない中で、グローバルなビジネスを展開しようとしているのではないだろうかという印象を受けるものである。
我が国も、これまでの長い蓄積と実績をもとに、他国に劣らない原子力に関する様々な技術を開発・保有している状況を鑑み、その体系的・統合的なシステム構築とそのセールスの在り方を見直し、具体的に取り組む段階にきているといえる。かつての共同実施時期での取り組みを振り返り、今後のエネルギービジネスの在り方として、我が国独自の体系的・統合的なシステムの商品開発検討とともに、どのような営業展開を図るか、ビジネス戦略の構築が必要であるが、まずは、それらを主導するけん引役を据えることから始めることが先決といえる。これまでと異なる我が国の在り方を世界に示す絶好の機会である。