経営戦略
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わが国の食料自給率は40%程度(カロリーベース)にとどまり、国民への食料の安定供給面で大きな不安を抱えているといえる。
一方、わが国の農業は高齢化と後継者不足の問題を抱えており、食料自給率の一層の低下も懸念されるところである。
このような不安を解決しうる有力な手段が”植物工場”である。農林水産省ホームページ「植物工場の拡大に向けて」(注1)によれば、”植物工場”とは、「光も含めた生育環境を高度に制御することにより、農作物の周年生産が可能な栽培施設」(高度環境制御周年栽培施設)のことであり、高度な施設園芸の一形態とされている。
植物工場の主な利点・可能性として、以下の点が挙げられている。生産性の向上を通じた食料自給率の向上や、軽労化を通じた農家の高齢化対策・新たな労働力確保が期待される。
植物工場の主な利点・可能性
(資料)農林水産省ホームページ「植物工場の普及拡大に向けて」(注2)
農林水産省と経済産業省は共同で「植物工場ワーキンググループ(WG)」を開催し、支援策の検討等を行ってきている。本年4月6日に農林水産省と(社)日本施設園芸協会が共同で開催した「植物工場フォーラム」の中で、WGにおける検討状況が紹介されたが、この中でも、”マーケットインの農業生産”(「できたものを売る」から「売れるものをつくる」へ)、”地域の雇用と所得の確保”(通常の農閑期も含めた周年雇用)、”新たな立地を活用した農業生産”(農地の有効活用を基本としつつ、工業団地や商業地等の立地も活用)、”植物工場を活用した新たな産業の創造”(機能性食品や遺伝子組み換え作物への展開による新需要創造)等、新たな成長産業としての農業への転換を図る手段としての植物工場の特徴が強調されているように感じられる。
いいことずくめのように思われる”植物工場”であるが、普及に向けては、いくつかの課題が存在する。
最大の課題は、設置コスト・運営コストが高価であることである。
植物工場と施設生産の10a当たりのコスト比較(事例)
植物工場(A) | 施設生産(B) | A/B | |
---|---|---|---|
設置コスト | 3.1億円 | 1,800万円 | 17 |
運営コスト(光熱費) | 1,860万円 | 40万円 | 47 |
※1 K社TSファームタイプ(720m2)の完全人工光型施設の値に基づく
※2 ビニールハウスでホウレンソウ等の養液栽培を行うM農園(858m2)の値に基づく
資料:農林水産研究開発レポートNo.14(2005)
他にも、栽培技術が確立されていない、栽培技術と施設の管理技術の双方を持ち合わせた人材が不足している、生産できる品種や作物が限定されている、といった課題が存在する。
このような課題の解決に向け、農林水産省や経済産業省を中心に、各種施策が講じられてきているが、生産コストの削減に向けては、(1)収量の大幅な向上、(2)低コスト施設・資材、(3)省エネ化・自動化が求められよう。オランダにおけるトマトの収量はわが国の植物工場に比べて6倍とのデータもあり、生産性向上の余地は大きいと考えられる。
資材開発の新たな動きとして、土の10倍の保水力、土の50倍以上の保肥力を有し、重量は土の10分の1の天然土壌資材を開発した事例(注3)がある。この天然土壌資材を使用することで、水耕栽培で必要となる循環装置やろ過装置等が不要になるほか、根菜類や米・麦の栽培も可能になるようになってきている。
また、植物工場の照明に用いられる人工光の省エネ化・省コスト化に向け、LED(発光ダイオード)やEL(有機エレクトロルミネッサンス)の採用が期待されているが、LEDは自動車部品としての利用拡大が見込まれるほか、ELも近い将来に実用化されるメドがたっている。太陽光発電の効率も一層向上していく見通しであり、省エネ化への取組を通じて、地球環境への負荷が小さく、かつ、安心・安全な作物の供給を安価に行える仕組みづくりを進めていくことが期待される。
自由貿易の推進に向け、各国とのEPA締結を推進しているわが国において、農業分野の開放が交渉推進に向けて課題となることも多い。植物工場の普及は、各国とのEPA締結推進にも寄与することであろう。
(注1)農林水産省ホームページ「植物工場の普及拡大に向けて」
(注2)農林水産省ホームページ「植物工場の普及拡大に向けて」
(注3)「環境ビジネスフォーラムin八王子~アジアを目指せ! 環境ビジネス~」配布資料