1. ホーム
  2. レポート
  3. レポート・コラム
  4. サーチ・ナウ
  5. 食品ロス削減~自給率向上、廃棄物抑制、国産食料品消費拡大を目指す一石三鳥型施策

食品ロス削減~自給率向上、廃棄物抑制、国産食料品消費拡大を目指す一石三鳥型施策

2009/10/09
櫻井 仁

 今夏の衆議院議員総選挙では、各党のマニフェストに掲げられた農業政策も一つの争点になった。中でも民主党の提唱する戸別所得補償1兆円は大きな話題を呼んだが、農業政策の中で、食料自給率の向上が主要な論点となっている点では、自民党も民主党も共通であった。民主党は「主要穀物等の完全自給」、自民党は「自給率50%」を目標に掲げていた。
 先月の農林水産省からの発表では、2007年から2年連続して食料自給率が向上し、2008年時点では食料自給率は41%(カロリーベース)に上昇したとのことであるが、「主要穀物等の完全自給」にしろ「自給率50%」にしろ、短期間での目標の達成は困難である。食料自給率向上に向けては、有効かつ継続的な政策の実施が求められることとなろう。

 現在、農林水産省を中心に進められている「食品ロス」削減対策は、食料自給率の向上につながる重要な取組として注目されるので、以下、概要を紹介したい。
 「食品ロス」とは、食品廃棄物のうち本来食べられるにもかかわらず廃棄されているもののことであり、その量は年間約500~900万トンと推計されている。具体的には、仕込みすぎた食材や食べ残しなどがこれに相当するが、「食品ロス」の発生量は、食用向け農林水産物量の約5~10%、食品由来の廃棄物の約30~50%に上る。
 食品由来の廃棄物の再生利用の推進のみならず、食品関連事業者から発生する食品廃棄物の発生抑制を図っていくことが、食品リサイクル法に求められているところであり、「食品ロス」の削減は、食品廃棄物の発生抑制にも大いに寄与しうるものであるといえる。

農林水産省「食品ロスの削減に向けて」
 「食品ロス」の削減に向けた検討会が、平成20年に農林水産省の総合食料局内に設置され、食品ロスの現状を踏まえ、削減に向けた対応方向に関する議論を経て、関連事業者や消費者が一体となって取り組むべき方向がとりまとめられている。この検討会報告書の概要版的な資料である農林水産省「食品ロスの削減に向けて」(平成21年3月)の中で、「食品ロス」削減の目的として、食品廃棄物の発生抑制の観点に加え、食料自給率向上、食料安全保障の観点が挙げられている。これより、「食品ロス」削減は、食料自給率向上と食品廃棄物の発生抑制推進の同時達成を目指した施策であるといえる。

「食品ロス」削減の目的に関連する記述

なぜ食品ロスを減らすことが必要なのでしょうか 日本の食料自給率(カロリーベース)は40%であり、多くの食料を輸入に頼っています。一方、世界の食料需給は人口増加や経済発展により、不安定な状況です。 今後とも安定的な食生活を送るためには、食料自給率を上げて食料供給を安定させるだけでなく、食品・食材を無駄なく大切に使っていくことが重要です。

(資料)農林水産省「食品ロスの削減に向けて」(平成21年3月)

 農林水産省「食品ロスの削減に向けて」(平成21年3月)の中で、具体的な食品ロス対策として例示されているものをみると、食のサプライチェーンに関連する事業者や消費者に求められていることは、商習慣やライフスタイルの変革に関わることが多いようである。

「食品ロス」対策に関連する記述

●すべての人に取り組んでいただきたいこと
食べものへの感謝の心を大切にして、「残さず食べる」「感謝の心をもつ」など、食についての習慣を身につける。

●すべての食品事業者に取り組んでいただきたいこと

  • 食品ロスの実態や削減目標を明確にして、食品ロスの削減に向けて社内意識を向上させる。
  • 食品ロスの削減に向けた行動計画を策定して、可能な限り公表する。

●食品メーカー、小売店に取り組んでいただきたいこと

  • 消費期限、賞味期限は、科学的根拠に基づいて設定することを徹底する。
  • 納入期限や販売期限は、商品ごとの特性を踏まえて設定する。
  • 食品メーカーと小売店の取引は買取契約を原則として、返品がやむを得ない場合はあらかじめ条件を明確にする。
  • 見切り・値引き販売で売り切る努力をより一層進めて、値引きの理由や品質には問題がないことを積極的に情報提供を行う。
  • 賞味期限が間近となった食品や、食品衛生上問題がない規格外品は、規格外品の性質を理解してもらえる小売店での販売やフードバンク活動への寄贈など、できるかぎり食品として有効に活用する。

●飲食店に取り組んでいただきたいこと

  • お客の好き嫌いや食べたい量をあらかじめ相談して、料理を提供する。
  • 天候やイベント開催など来店者数に影響のある情報をもとに需要予測を行い、食材の仕入れや仕込みを行う。
  • 品質的に問題のない食べ残しは、お客の自己責任であることをわかってもらった上で、食べきる目安の日時などの情報提供を行って、持ち帰り用に提供することを検討する。

●消費者に取り組んでいただきたいこと

  • 賞味期限が過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではないことを理解して、見た目やにおいなどの五感で個別に食べられるかどうか判断する。
  • 冷蔵庫などの在庫管理や調理方法、献立の工夫に取り組む。

(注)直線の下線は商習慣改善に、直線の下線&太字はライフスタイル変革に関するもの。

 上述のような取組推進にあわせて、国産食料品等の消費拡大等を通じた食料自給率向上のための国民運動「フード・アクション・ニッポン」が展開されてきている。この運動では、”食べ残しを減らしましょう””自給率向上を図るさまざまな取り組みを知り、応援しましょう”といった目標が掲げられており、「食品ロス」削減とも関連が深い。
 農林水産省の平成22年度予算概算要求によれば、この国民運動の推進パートナーの拡充や、国産食料品へのポイント付与を通じた国産農産物の消費拡大事業の推進が予定されている。
 このことから、「食品ロス」削減への取組は、国産食料品消費拡大をも目的とした取組といえ、食料自給率向上、食品廃棄物の発生抑制推進、国産食料品消費拡大を目指した一石三鳥型の施策といえるのではないだろうか。

農林水産省「平成22年度 農林水産予算概算要求の概要」
(資料)農林水産省「平成22年度 農林水産予算概算要求の概要」

 9月28日から10月30日にかけて全国4箇所で開催される『食品ロスの削減に向けた国民フォーラム』は、食品関連事業者のみならず、広く国民一般に食品ロスへの対策の必要性を知らしめ、商習慣の改善、ライフスタイル変革に向けた取組を促すものになりそうである。商習慣の改善やライフスタイル変革は、一朝一夕では達成できるものではないことから、三党連立政権においても、引き続き、「食品ロス」削減への取組が推進されることを期待したい。

持続可能社会部
主任研究員
櫻井 仁

関連レポート

レポート