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インフラビジネスにおける官民の役割分担のあり方

2010/06/17
梶田 晋吾

 電力、道路、鉄道、水道といった社会基盤(インフラストラクチャー)整備のニーズは、中国やインド、ベトナムに代表される新興国を中心に、急速に拡大している状況にある。とりわけ各国の政策上、電力分野は経済成長の下支えをする重要な役割に位置づけられているが、その中でも、原子力発電は環境負荷の低減に大きく寄与するとして注目を集めている。これは、先に述べた新興国だけでなく、先進各国においても、その重要性が認識されており、現在原発導入・推進の動きが60カ国あまりの国々にまで広がっていることから、その注目ぶりが伺える。

 インフラ整備では、個別の要素技術の確保から一連のシステム、あるいはハード、ソフト両面を扱うことが必要となるが、やはり対応が可能・有利なのは実績を有する先進各国(とその企業)ということになる。このことは、原子力分野に限らず、あらゆるインフラビジネス分野に共通する点であるが、ニーズの拡大とともに各国がナショナル・セールス(政府と民間企業が一体となって営業を行うスタイル)を繰り広げ、自国の強み・商品をアピールするなど競争激化の様相を呈している。

 インフラビジネスを述べる際に、原子力分野を引き合いに出すのは、単にプロジェクトの規模や数、関係国の数といった観点だけでなく、”資源確保”や”グローバルな観点で統合化をデザイン・推進する力”が重要視とされる広範性といった点で、今後のあり方を再考する意味から大変興味深いためである。
 実は、この”資源確保”の観点とは、原発新設ニーズの急増とともに、燃料の重要性が高まっただけでなく、「資源確保」という各国競争上の戦略や力関係の重要性の認識をあらためて明確にした点で見逃してはならないからである。我が国のエネルギー基本計画には、資源確保の論点はエネルギー自給率向上に向けた目標設定で明示されている。しかし、長らく、石油がその中心を担ってきた時代からすれば、また我が国の場合、かつて、当時の資源確保をねらい、辿った軌跡まで振り返るべきである。次代の資源確保競争に対峙するにはどのようにあるべきかを再考する絶好の機会ではないか。

 そして、もう一つの興味深い観点として、先に述べた”統合化のデザイン力・推進力”とは具体的にエネルギー供給においては発電所建設やプラント供給だけに終始せず、ネットワークの整備、あるいはリサイクル、最終処理といったバックエンドなどを見据え、一貫して取り扱うシステムを多面的に”構築”し、”推進する(動かす)”という「総合技術」の重要性に行きつくこととなる。さらにその技術はエネルギーシステム全体の最適化に寄与するだけでなく、その地域の経済発展や都市形成など関連・波及する領域までを視野に入れた取組や、これらに関わる広範な「人」の確保・育成、関連技術・ノウハウ継承の仕組みもセットで備えることが極めて効果的となり、重要になってくることは自明である。
 いずれも、国際競争の舞台で、あるいはマーケットニーズとして不可避な要素といえるものだが、相対的に我が国はその対応力を十分備えているとは言い難く、積極的な取組が望まれる。

 ナショナル・セールスの基本は、政府と民間の一体的な取り組みである。したがって、一体的に取り組むためには、目的の共有化と役割分担の明確化が不可欠である。我が国のナショナル・セールス力が他国に比べて脆弱と指摘される理由は、インフラ整備の中心が国内市場であったこれまでの時代において形成された官民のあり方にその一因があるのではないだろうか。例えば、これまで我が国の公共事業の調達は入札が基本であったが、価格以外の要素すなわち技術提案や事業計画の提案なども加味して事業者を選ぶ調達方法が広がっている。

 筆者は、このような方法が本格的に拡大したきっかけの一つに、”PFI手法”の導入があると考える。この手法は既に法が施行されて10年以上経過し、約450件の事業が実施されているが、件数、規模、取扱い金額の面からみて、公共事業全体において大きな割合を占めるとは言えない。しかし、これまでと明らかに異なる点は、民間にとっても個々の技術導入やノウハウ活用だけといった部分的な最適化の役割を担うだけではなく、事業全体を長期にわたり最適化を図るようにデザインしたり、動かしたりする全体最適のコーディネート能力がとても重要になったことである。
 そうなれば当然のことながら、受発注両者に、これまでと異なる目線や取り扱いが必要になるが、一方で同時に両者に共通する課題も科せられることになる。すなわち従来のような受発注という関係ではなく、長期にわたり事業を動かすために各々が必要な役割を果たすという認識が極めて重要である。
 先に述べた国際競争の中でも、単なるこれまでの受発注の関係はなく、共通の目的に向かって取り組むパートナーという感覚にまで発展させていくことが大切といえよう。果たすべき役割を両者が互いに押し付けあうことなく取り組んでいく良い機会であり、決して出遅れてはならない。

研究開発第2部(大阪)
主任研究員
梶田 晋吾

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