経営戦略
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平成22年は、日本の近代林業における節目の年となった。林野庁の森林・林業再生プラン実践事業で、ドイツ・オーストリアの森林官が来日し、日本の林業のあり方に提案・助言を行い、モデル地区でヨーロッパの林業機械が試験的に導入された。ドイツ・オーストリアの林業から学ぶべきものはあったのかを述べていく。
昔、日本の林業はドイツ林業を手本に発展していった。ドイツなど中央ヨーロッパの森づくりや林業技術は日本の林業の各所に垣間見られる。昭和の時代、森づくりは目標とする森を定め、一本一本間引く木を吟味し、間伐を行っていた。そうすることにより森は質の揃った林になり、その中でも上質の木はさらに長く育てることにより、森づくりは収益の最大化を目指した。同時に、質の揃った林の中に上質の大木が点在する多様な森林となった。
その後、木材価格の下落により、日本の林業は森づくりの費用の削減を余儀なくされた。これにより、森を吟味することなく、列状に間引きを行う列状間伐で低コスト化を図った。しかし、その代償として森の質は不均一になり、求められる木材のニーズの変化によるものもあったが、森からの収益も低下した。収益の低下を補うため、列状間伐や作業道を開設し、低コストで木材を搬出する方法を発展させていったが、高密度の作業道を建設する結果となり、さらに森の質の低下を招く悪循環に陥った。そこで、上記の林野庁の事業は、ヨーロッパの機械を導入し、生産コストをさらに低減させることを大きな目的として行われた。
ところが、ドイツ・オーストリアの森林官は、機械化のみでなく、森づくりと路網整備、作業システムを、総合的に検討する必要ありと提言した。作業システムより森づくりが優先課題である。まず森づくりの目標がある。森づくりは、収益を最大化するため、長期にわたり森を育て大木を生産することを目的とする。その上で、地形等を考慮し、路網整備・機械化を行うのであり、低コスト化のために機械を導入し、それに合わせて森を作るのではないということであった。列状間伐ではなく、ピンポイントで伐採・搬出する機械化と路網整備が必要である。
その結果、急斜面のモデル地区において、提言された機械がタワーヤーダである。タワーヤーダは、支柱とワイヤーロープを備えており、クレーンゲームのように搬器が木材を吊り上げ搬出する。過去に、タワーヤーダは日本に導入されていたが、列状間伐や高密度に作業道を建設する日本の林業では使われなくなっていたのである。今回導入されたタワーヤーダは、昔のものから技術革新が進んでいる。比較的長いワイヤーロープを有し、木材を吊り上げる搬器はボタン操作により自動で運転できる。長いワイヤーロープにより、路網密度は比較的小さく済み、列状に間伐しなくても、一本一本を丁寧に搬出できる。自動運転のため、省力化も図られる。作業道より広い林道が必要であるが、タワーヤーダの場所から、直接、大型トラックで木材を運び出せる。すぐに結果は現れ、低コスト化を実現した。
今回の事業で、収益性の向上は、収入の向上と低コスト化が基本であることが再認識された。また、収入の向上には森づくりが最優先課題であり、低コスト化には、路網整備・機械化が必要である。必要最小限の林道を建設することにより、目標とする森づくりも可能となる。高密度の路網でなくても、低コスト化は機械の技術革新により実現可能であった。森づくりの基本に立ち返り、技術により低コスト化を実現し、収益を向上させる考え方が、今回、日本の林業が学んだことではないか。