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持続可能なバイオマス利用のための3原則

2012/04/17

 再生可能エネルギー特別措置法(以下、FT制度)の詳細な制度設計を行うための価格算定委員会が設置され、2012年4月現在、事業者等へのヒアリングを行いながら、矢継ぎ早に議論が行われている。4月中には委員会案がまとまり、その後パブリックコメントを経て、5月には価格体系が決まる見通しである。
 FIT制度は、再生可能エネルギーセクター待望の推進策であるが、欧州等の先行事例を踏まえて慎重に制度設計が行われる必要がある(i)。特に、バイオマスエネルギーは再生可能エネルギーの中でも重要な位置を占めるにも関わらず、植物体の収穫を伴うことから、生産地である森林等の生態系の持続可能性も確保されなければならないという点で特別な配慮が必要である。

 現代的なバイオマスエネルギー利用が注目されるようになったのは1990年代に入ってからであるが、当時は極めて楽観的にバイオマスエネルギーの利用が進むと想定されており、例えば1995年のIPCCの第二次評価報告書では21世紀末には世界のエネルギー需要量の約半分がバイオマスで賄われるという見通しも出ていた(ii)
 ところが、2000年代に入り、気候変動対策や原油価格の高騰等の複合的な要因から、欧米で相次いでバイオ燃料(液体バイオマス)導入に高い目標が設定され、かつ実際に導入が進んだことで明らかになったのは、エネルギーと食糧との競合の問題であり、間接的なものを含む土地転用の問題であった(iii)。このため、バイオ燃料については、急速に持続可能性に関する基準づくりが進み、国際的なレベルではGBEP(Global Bioenergy Partnership)、EUなどで策定され、日本でも2010年に基準が策定された(iv)
 その結果、利用方法についても、最終エネルギー消費量の削減やエネルギー効率の向上を前提とし、各種の再生可能エネルギーとの役割分担や複合利用の中で、「バイオマスエネルギーは最後の手段」として使うべきという考え方が浸透しつつあるように感じる。例えば、WWFが発表した「The Energy Report – 100% Renewable Energy By 2050」によれば、2050年までに全世界で再生可能エネルギー100%を達成するために固体・液体燃料よりも電化を推奨し、これを風力や太陽光等の再生可能エネルギーで賄い、非電化領域を太陽熱や地熱、ヒートポンプで賄うというのが基本的な戦略になっている(v)。バイオマスエネルギーについては、高い温度帯の熱を容易に得ることができることから、航空機や船舶、EV化の難しい大型の車両用の燃料、そして高い温度が必要な産業用プロセスの燃料としてのみ用いるとし、持続可能な穀物栽培、適切な森林管理が前提、としている。

 それでは、固体バイオマスについては、どうだろうか?(なお、固体バイオマスは大きくは農業系のものと森林系のものに大別されるが、特に賦存量も多く利用が進んでいるのが森林系のバイオマスであり、これ以降の本稿の議論も森林系バイオマスに焦点を絞っていきたい)
 森林系バイオマスの場合に考慮しなければならない厄介な問題は、破壊的に収穫された森林はその回復に数十年から100年を要するため、「炭素負債(Carbon Debt)」が発生するということである(vi)。つまり、IPCCの第4次報告書で警告されているように、2050年までに気候変動の深刻な危機を回避するためには、向こう20-30年以内に大幅にGHGを削減する必要があるが、上記のような破壊的な収穫(例えば、エネルギー利用のみを目的とした皆伐)が行われると、2050年までの炭素会計は赤字となり「炭素負債」が発生してしまうのである。このようなことから、「バイオマスエネルギーであれば、全てカーボン・ニュートラルである」という想定は単純すぎると考えられるようになってきている(vii)
 また、バイオマスは熱の直接利用では80-90%の高効率を実現するが、発電の場合はせいぜい数10%程度の効率しか実現できない。そのため、特に発電利用のみでは、場合によっては期待するようなGHG削減効果が得られないため、欧州のFIT制度ではコジェネレーションを推進する仕組みが設けられていることが多い。

 このように世界的には、いかに持続可能性を担保しながら、バイオマスを重要な再生可能エネルギーとして用いていくかということについての活発な議論が行われ、FITと関連制度の設計も進化しつつある。そこで日本でも、この問題に関心を持つ環境NGOらが中心となって議論を行い、「日本におけるバイオマスの持続可能な利用促進のための原理・原則~~適切な FIT 制度の設計のために~」を発表し、この中で3つの原理・原則を明らかにした(viii)
 この原理・原則は、環境・経済・社会の3つの側面を配慮し、総合的な便益を得られるような制度設計を促すものである。つまり、バイオマスエネルギー利用は、適切に推進すれば、地域におけるエネルギー自給率を高め、地域経済循環を促進することが期待できるが、その基礎には森林生態系の健全性(環境)が持続的に確保されなければならない。
 このような制度が実現して初めて、地域の森林資源を持続可能な形で活用する、環境・社会面での便益が期待できるビジネスチャンスが生まれ得るのであり、近視眼的な制度設計では将来に禍根を残すことになるだろう。FIT制度は、15年~20年といった長期に渡って影響を及ぼすものであることから、制度設計のこの時期の議論が決定的に重要である(ix)

表:持続可能なバイオマスエネルギー利用のための3つの原則

表:持続可能なバイオマスエネルギー利用のための3つの原則

(注)参加団体は枠組みとしての3原則に合意したが、以下は3原則に基づき議論された論点であり、個別論点については必ずしも参加団体の見解を反映するものとは限らない。
(出所)「日本におけるバイオマスの持続可能な利用促進のための原理・原則~適切な FIT 制度の設計のために~(背景文書)」等より筆者作成

(i)例えば、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)に対する提言」自然エネルギー財団
(ii)熊崎実「木質エネルギービジネスの展望」(全林協2011)
(iii)例えば、「Review Indirect Effects」(IUCN Netherlands Committee, 2010)や、「Anticipated Indirect Land Use Change Associated with Expanded Use of Biofuels and Bioliquids in the EU」(Institute European Environmental Policy, 2011)などを参照のこと。
(iv)http://www.meti.go.jp/press/20100305002/20100305002.html
(v)日本語版は、WWFジャパンのホームページで閲覧することができる。
(vi)例えば、「Land Clearing and the Biofuel Carbon Debt」Fargion et al. 2008
(vii)例えば、イギリスの気候変動委員会(Committee on Climate Change)による「Bioenergy Review」など。
(viii)また、3月19日には、本提言の発表と各原則の内容を深めて議論するためのシンポジウムが開催され、200名近い方々の参加があった。当日の 資料は、NPO法人バイオマス産業社会ネットワークのホームページで閲覧できる。
(ix)なお、本稿でも主張してきたとおり、バイオマスは熱利用が主たるべきであり、(電気を対象とした)FIT以外にも熱利用促進のための制度が、別途必要である。

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