経営戦略
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~ 日本のカード業界における決済代行業者とその販売店の管理状況 ~
近年、インターネットを通じた詐欺的な取引に係る消費者苦情が増えているとの指摘が多く、内閣府や経済産業省で問題意識を強めている。特にこのような取引の決済にクレジットカードが使われており、しかも、トラブルが多いのはカード会社が直接契約をしている加盟店ではなく、決済代行業者を介している場合であることが問題視されている。そのような問題意識のもと、当社では、今年はじめに経済産業省からの委託を受けて、決済代行業者を通したカード取引に関する実態調査を実施した(注1)。本稿では、決済代行業者を介したクレジットカード利用の実態と、決済代行業者による販売店(以下、店子とよぶ)の管理状況についてご紹介する(注2)。
決済代行業者を介したクレジットカード取引は下図のような仕組みによって行われる。決済代行業者の店子とカード会社(アクワイアラー)との間には直接の契約関係がなく、両者の間にはクレジットカードの包括加盟店としての決済代行業者が介在している。
図 決済代行業者が介在する場合のクレジットカード取引の仕組み(注3)
今回の調査で、少なくとも日本のカード会社においては、決済代行業者に対して通常の加盟店より厳しい管理や審査を行っていること、決済代行業者とカード会社間との契約及び決済代行業者と店子との契約では、店子が商品・サービスの提供を確実に行う義務や返品・キャンセルに応じて返金を行う義務などについて、店子と決済代行業者が連帯責任を負う旨について明確に規定していること、また、店子が不適切なことを行った場合には、カード会社が店子に対して事実上の解約権を有していることがわかった。
また、決済代行業者が自社の傘下にある店子に対し、初期審査や途上管理を行っていることは当然だが、加えて決済代行業者と契約している国内のカード会社でも独自に店子に対する審査を行っており、店子に対してはほぼ二重審査・二重管理になっていることがわかった。決済代行会社やカード会社は、店子にカードの取扱いを許可する初期審査の際に、取扱商品の内容や販売方法、販売のために必要となる許認可や届出の確認、特商法上の適切な表示の確認等、多くの項目についてチェックを行っている。加えて、カードの取扱開始後も、カード会社、決済代行業者の少なくともどちらかにおいて定期的に、店子の取引データのモニタリング、ウェブサイトのチェック、営業状況の確認を行ったり、また消費者とのトラブルが多い加盟店に対しては是正依頼を行い、改善しない場合には契約を解除するといった厳正な管理を行っている。
このように国内のカード会社では、決済代行業者に対してもその傘下の店子についても厳しい審査を実施しているため、かえって国内のカード会社や決済代行業者からカードの取扱を許可してもらえない販売店(業種)も多くなっている。そのためこれらの業種においては、かなりの割合で、クレジットカードでの支払を可能にするために海外の事業者(決済代行会社、またはカード会社)と契約していることが推測される。現状、国内の決済代行業者が海外のカード会社と契約して決済代行サービスを提供している例では、利用者からのクレームがあればほぼ返金等の処理を行っているようであるが、店子が海外の決済代行業者と契約している場合には相手がつかまらない場合も多く、消費者トラブルへの対応は簡単ではない。
このような実態において現状、対応策として考えられるのは、まずは国際ブランド(ビザ、マスターカード等)に対するものである。クレジットカードがボーダーレスに利用されている現状では、国別対応では限界があるため、グローバルレベルの対応が可能な国際ブランドへの期待が高くなる。現在でも、国際ブランドには国を越えて加盟店契約を行うことを禁じた内規があるのだが、あまり守られていない国も多いようである。各国においてもこの内規遵守の徹底を図ることや、また、不良加盟店の情報を分析して、グローバルにデータを共有化できないかという声も強くなっている。
次に、特に日本においては、契約内容や取引に関するリスクを理解せずに契約をする消費者や店子が多いという指摘もある。そのため、全ての関係者が各々の取引に関するリスクや自分の役割を今一度認識する必要があり、そのための啓蒙をどのようにするかを考えていく必要がある。
3点目としては、決済代行業者の業界としての明確化である。決済代行業者は業務内容が多岐に富んでいるため業界としての顔が見えにくい。今後、店子のリスク管理の関する情報共有を高めるためにも、水平的なつながりを強め、業界内及び業界外にそのプレゼンスを透明化していく必要があるだろう。
クレジットカード会社の加盟店管理という点に関しては、日本においてもスマートフォンをクレジットカード決済端末として利用するサービスが開始されたことで加盟店の飛躍的増加が期待される半面、増加する(特に小規模な)加盟店の管理、端末の安全基準や運用ルール等について、新たな課題が出てきている。これらの問題については、また次回とりあげたい。
(注1)http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002095.pdf(外部リンク)
(注2)調査手法としては、クレジットカードの決済代行を行っている20社ほどの決済代行業者及び、その決済代行業者の管理を行っている国内のほぼ全てのカード会社に対してその管理実態について聞き取り調査を行ったほか、海外決済代行業者と契約していると思われる業種の契約実態についても調査を行った。
(注3)図を見ていただく前提として、クレジットカードの業務は、カード会員を獲得するカード会社(図のイシュアー)と、販売店・加盟店の開拓・管理を行うカード会社(図のアクワイアラー)に分けられていること、カード会員からはイシュアーしか見えないが、実際のクレジットカード取引において2つのカード会社は異なっていることが多いことを確認いただきたい。トラブル等の際にはカード会社間で調整しているが、決済代行業者の管理は、カード会員側のカード会社の業務ではなく、アクワイアラーとしてのカード会社の責任である。