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今年も10月を迎え、スーパーやコンビニの店頭にハロウィンをイメージした色鮮やかな装飾が目立つようになってきた。ほんの少し前まではわが国では「はろうぃん?」という状況だと認識していたが、この数年間で大きく様変わりしたように感じられる。
そこで本稿では、わが国でハロウィンによる経済的な効果がどの程度発生してきているか、お菓子に対する消費額を対象として検証してみたい。
ハロウィンはケルト人の民俗行事に起源を有するとされる。ケルト人の暦では、10月末が年末にあたり、その夜は死者の霊が家族を訪ねてくると言われている上、収穫祭としての意味合いもあるとのことで、わが国でいえば「お盆」と「秋祭り」と「大晦日」がまとめてやってくるということになるだろうか。わが国では、ハロウィンといえばカボチャの提灯(Jack-o’-Lantern)が想像されるが、これはカボチャが多く収穫される米国で変化したもので、もともとはカブが用いられていたとのこと、一般にわが国でイメージされるハロウィンは、米国で商業化された大衆文化として捉えることがよさそうである。
わが国で最初にハロウィンが行われるようになった時期はわからないが、1983年開園の東京ディズニーランドでは「クリスマス・ファンタジー」を開園以来実施しているのに対して、「ディズニー・ハロウィーン」は1997年開始と比較的新しいこと、現在、日本最大級のハロウィン・パレードと思われる「カワサキ・ハロウィン」が開始されたのも同年であること等から、この1997年前後が、わが国におけるハロウィンというイベントの転機といえそうである。
また、2000年代後半からはインターネット調査各社がハロウィンに関する調査結果を公表している(注1)。これらを眺めると、各社、調査の前提こそ異なるものの、認知度はほぼ100%に近く、年々、お菓子の購買を中心にハロウィンに関係した行動を起こす人の比率が上昇してきている傾向がみてとれる。有力な菓子製造業者が相次いでハロウィン・パッケージの主力商品を投入しはじめたのもこの時期であることから、1990年代後半から2000年代前半にかけて認知度が高まり(一般化し)、2000年代後半からは商戦として認識されはじめ、各所で目に付くようになってきたものと考えられる。
米国では、全米小売業協会(National Retail Federation)が、ハロウィンにかかる家計の推定消費額を毎年調査している。これによると、2013年の消費額は全体でUSD69.9億(約6,833億円(注2))、1人あたりでUSD75.03/人(約7,334円)と推定されている。その内訳はCostumes(衣装)が37.1%で最も多く、次いでCandy(菓子)が29.8%、Decorations(装飾)が28.0%、Greeting cards(グリーティング・カード)が5.1%である。
全体での推定消費額の推移をみると、2005年にはUSD32.9億であったものが、2012年にUSD80億に達しており、ここ数年間での伸張が激しいことがわかる。また、内訳をみると、2005年は菓子が35.3%で最も比率が大きかったが、2006年以降は衣装の比率が最も大きくなり、装飾も急激に伸びるなど、特徴的な変化がみられている。米国でハロウィンによる消費額が急激に増加したのは、菓子やグリーティング・カードに比べて単価の高い衣装や装飾に対する消費額が増加してきたことによると考えられる。
図表 米国におけるハロウィンに伴う推定消費額の推移
資料)全米小売業協会(National Retail Federation)資料より作成
図表 米国におけるハロウィンに伴う1人あたり推定消費額と内訳の推移
資料)全米小売業協会(National Retail Federation)資料より作成
本稿を執筆する上でさまざま検索したが、ハロウィンにかかる家計の消費額を綿密かつ総合的に調査した米国のような例は、わが国では見受けられない。ただし、既に述べたように、わが国でのハロウィンにかかる消費の中心はお菓子であると考えられることから、総務省統計局「家計調査」における「菓子類」の消費額を、月次で比較することで検証してみた。
「家計調査」によると、毎年9月~11月は「菓子類」に対する消費額が他の月に比べて非常に低い。各月数値が揃う最新である2012年で確認すると、月平均消費額が6,482円/世帯(注3)であるところ、この3か月はいずれも6,000円/世帯に満たず、特に10月は年間で最低の消費額となっている。
一方で、内訳「キャンデー」に対する2012年10月の消費額は180円/世帯であり、同年の月平均「キャンデー」消費額(約176.4円/世帯)を約3.6円上回っている。「菓子類」に属する16品目のうち、2012年10月の消費額が同年の月平均消費額を上回っている品目は「まんじゅう」「キャンデー」「チョコレート菓子」の3品目しかなく、ここ10年ほどの結果をみてもほぼ同様となっている。「キャンデー」は冬場によく売れる傾向がみられること、ホワイトデーによる効果がみられる3月には及ばないことなどは指摘できるが、10月は「菓子類」が全体に低調ななか、「キャンデー」は比較的順調である傾向は数字で確認できる(注4)。
図表 「菓子類」および「キャンデー」に対する消費額の月別推移(2012年)
資料)総務省統計局「家計調査」より作成
そこで、「キャンデー」の10月における消費額と月平均消費額の差分(約3.6円/世帯)を、仮にハロウィンによる効果として、2012年の一般世帯数(単独世帯除く)の推定値(注5)を乗じると、2012年における数値は約126百万円と算出される。もともと10月の「菓子類」に対する消費額がかなり低いことを考慮し、「菓子類」の月平均消費額と10月における消費額で算出した比率(約0.88)で「キャンデー」の月平均消費額を調整して同様に求めた差分(約24.8円/世帯)で算出した場合でも約875百万円となる(注6)。この検討結果からは2012年ハロウィンによるわが国における「キャンデー」に対する消費押上効果は数億円規模と推定される。
2012年10月の「キャンデー」消費額が全てハロウィンによるものとして、さらに単独世帯(注7)も2人以上の世帯と同額を支出するという最も極端な設定を置いてもわが国では95.3億円にしか到達しない。一方で、前ほどの全米小売業協会による調査では、2012年ハロウィンでの米国におけるCandy推定消費額はUSD23.6億(約1,831億円(注8))である。厳密には推計方法や範囲が異なるため、かなり粗い比較(注9)とならざるをえないが、両国の人口比を考慮しても、わが国におけるハロウィンによる消費押上効果は、現時点では小さなものに留まっていると考えるべきであろう。ハロウィンの認知度は既に一般的な域に達したといえそうだが、経済効果や、商戦といった立場から論じる場合には、まだまだ工夫の余地がありそうなイベントである。