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京都議定書第1約束期間(2008~2012年)が終了し、2012年度の温室効果ガス排出量速報値が既に公表されている。環境省の資料1によれば、森林吸収量及び京都メカニズムクレジット分を加味すると、2008~2012年度における排出量は5カ年平均で基準年比-8.2%となり、我が国は基準年比-6%の削減目標を達成する見込みとされている。
我が国は京都議定書第2約束期間には参加しないという選択をしたが、当然ながら、今後温暖化対策を行わなくても良いというわけではない。2013年9月に公表されたIPCC第5次評価報告書第1作業部会の報告書においても、「気候システムの温暖化には疑う余地がなく、人間による影響が温暖化の最有力要因であり、気候変動を抑制するには温室効果ガス排出量の大幅かつ持続的な削減が必要」と指摘されており2、喫緊の排出削減対策が必要であるという状況に全く変わりはない。
気候変動枠組条約の下での2013年以降の国際枠組みにおいては、京都議定書第2約束期間に参加しない先進国は、各国が自主的に設定した2020年削減目標に向け、温室効果ガスの排出削減努力を続けていくこととなる。京都議定書と違ってこの目標には法的拘束力がないため、国際法的側面から見れば第1約束期間における削減目標に比べて強制力は弱いが、一方で各国の削減目標の達成に向けた進捗評価の仕組みが強化されていることから、2013年以降の新しい枠組みが一概に「緩い」とは言えない。
京都議定書第1約束期間においては、削減目標に対する各国の達成方法及び進捗は事実上チェックされていなかった。削減目標の達成は第1約束期間5年間の排出総量で評価されるものであり、途中の期間における削減の進捗や各対策・施策の実施状況等を確認し、評価する仕組みは存在していなかった。先進国は、毎年の温室効果ガス排出・吸収量を気候変動枠組条約事務局に提出し、専門家による審査を受けているが、審査の観点は排出・吸収量の正確性や透明性等であり、削減目標に対する進捗状況や具体的プロセスは審査の対象外であった。一方、2013年以降の国際枠組みでは、先進国は温室効果ガスの排出・吸収量だけでなく、削減施策・対策の具体的内容や削減ポテンシャル、2020年及び2030年までの排出量の将来予測等の情報を含む「隔年報告書」を2年に一度提出することとなった。すなわち、排出量という「結果」が評価対象となっていた京都議定書第1約束期間の仕組みに比べ、2013年以降の条約の下での枠組みでは、施策・対策の「結果」に加え、どのように削減目標を達成していくのかという「プロセス」も重視されていると言える。
また、隔年報告書に対しては、国際的評価及び審査(International Assessment and Review: IAR)という新しい進捗評価の仕組みが設けられ、提出された隔年報告書の内容に対する専門家による審査に加え、国際会議でのプレゼンテーションと質疑応答を含むプロセスが追加された。これにより、これまで以上に各国の温暖化対策の実施に対する国際的な相互監視の目が厳しくなることが予想される。この隔年報告書の第1回提出期限は2014年1月1日であり、我が国を含む殆どの先進国が既に第1回隔年報告書を提出している。今後、提出された第1回隔年報告書に対し、初めてのIARが開始される予定となっている。
我が国は、2013年11月にワルシャワで開催されたCOP19において、2005年比3.8%減という新しい2020年削減目標を発表するとともに、温室効果ガス排出量の2050年世界半減に向け、我が国の低炭素技術で世界に貢献するための「攻めの地球温暖化外交戦略」3を発表した。しかし、EUが1990年比20%減、米国が2005年比17%減という目標を提示するなか、日本の2005年比3.8%減という野心度の低い目標は各国の失望を買い、今や日本に対し「温暖化対策を先導する国」、「低炭素社会先進国」というイメージは失われつつある。各国の排出量やトレンド、及び気候変動政策等を総合的に評価した気候変動パフォーマンス指標でも、日本は対象58か国中50位と下位に沈んでおり、大排出国である米国や中国よりも低い結果となっている4。
「攻めの地球温暖化外交戦略」に掲げてあるように、日本が2050年世界半減に向けた努力の先頭に立ち、全世界的な低炭素化に貢献していくためには、早期に削減目標の引き上げを行うとともに、意欲的な施策・対策を立案・実施し、排出量の削減という「結果」は当然のこと、排出削減に向けた具体的かつ明確な「プロセス」の双方を示していくことが最低限必要である。これらの情報を透明性の高い形で報告していくことが国際社会からの信頼獲得につながり、ひいては2015年のCOP21で決定される予定の2020年以降の国際枠組みに関する交渉や、我が国の低炭素技術の移転促進にも貢献しうるものと考えられる。排出削減に資する施策・対策の強化とともに、関連情報の報告並びに国際的な情報発信の強化も求められていると言えよう。