経営戦略
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2015年3月に、Small Long Conferenceという林業・木材産業関係の実務家を中心としたConferenceに参加する機会を得た(注1)。Conferenceの主催者は、Forest Business Networkという、林業関係のベテランのコンサルタントが立ち上げた、木材産業の振興やネットワーキングを主なミッションとしたコンサルティングサービス会社である(注2)。8年ほど前から開催して年々規模を拡大しているそうであるが、日本とは違って民間営利企業が会議を主催している点も示唆的である。
大変刺激を受けることが多かったので、2回に分けて紹介したい。一回目の今回は、日本の木材市場の文脈づくりの発信の必要性と、木材の輸出戦略について考えたことを書きたい。
筆者は2日目朝のキーノート・スピーチの機会をもらい、日本の木材市場の動向の概要を説明した。スピーチでは、戦後から現代に至るまでの歴史的な流れを概観し、日本の木材市場や政策の現状の背景を理解してもらうように心がけた。最初に、戦後の復興期の木材需要を輸入材に頼ったのは、当日の森林資源の状況を考えれば合理的な選択であり、現在も重要なパートナーであることを述べた。他方、近年の日本においては、人口減少から住宅着工数も減少が見込まれていること、国内森林資源も一定以上の利用の目処が立ちつつあることから、木材輸出先として過剰な期待はできないことを説明した。その上で、木材が持続可能な社会を構築していく中で果たしうる役割を、CSV(Creating Sheared Value)的発想でマーケティングしていくことが有効ではないかと述べた(注3)。
また、カナダ西海岸とアメリカ北西部は、アジアに熱心に木材を輸出しており、環太平洋圏は木材貿易が盛んな地域である。そこで、人口減少・高齢化が進むのは、中国や韓国、台湾など、他のアジア諸国でも同様であることを示した上で、そういった意味で日本を一つのテストケースとして位置づけ、国際的な協働を呼びかけた。さらに、アメリカでは、木材伐採に対して環境保護団体を中心に批判が大きかったが、ここに来て、「Re-Think Wood」と呼ばれるような一連の木材利用の社会的な意義をPRする取組が起こっている。日本でも、林業関係の映画が公開されることや、オリンピックでのPRがよい機会となるであろうことを紹介した。
このような文脈からの日本からの発信はこれまで多くなかったはずであり、聴衆には新鮮に受け止めてもらえたようである。他方、林業や木材産業に対する補助金については、厳しい視線が注がれている。筆者はこのことを話題にすることを意識的に避けたが、歴史的な背景や文脈を発信してくことの重要性と有用性を確認できたのではないかと思う。
今回のConferenceの開催地であるアイダホ州は、木材のアジアへの輸出を強化していく方針を持っており、アイダホ州商務部の招きで、台湾の木材商社の社員が来ていた(注4)。筆者はそのような人達と直接話しをするのは初めてであったので、ネットワーク形成の点でも大変貴重な機会であった。その上で、彼らと議論をしながら、日本からの木材輸出戦略について考えたことを書きたい。
まず分かったことは、北米からアジアへの太平洋をまたぐ木材貿易ビジネスは、かなり限られたプレイヤーの顔の見える関係の中で行われているという点である。例えば、日本へ留学経験などがあり、かなり流暢に日本語を話すアメリカ人などもいて大変愉快であったが、そのフットワークの軽さと日本への理解の深さには驚いた。このような人たちとの深い信頼関係に基づき、日米の木材貿易ビジネスが成り立ってきたということを知ったことは、逆に日本人が輸出先として期待するアジア諸国との関係を考える上で、私自身が襟を正す機会となった。
次に興味深いと思ったことは、台湾の商社が見ているのは、台湾市場だけではないということである。彼らは中国本土はもちろん、ベトナムやインドネシアなどの他の東南アジア諸国の市場をよく見ており、実際にビジネスを展開している。そして、原材料ソースの一つとして、アメリカやカナダだけではなく、日本にも関心を持っているのだ。だから例えば、台湾の商社と連携して、そこに日本の木材を供給していくという戦略は、ありえないだろうか。
また、別の視点としては、住宅の工法そのものを輸出するという戦略がありえる。そもそも、日本でも全住宅着工数の10%以上を占めるに至ったツーバイフォー(木造枠組壁工法)は、北米で生まれた工法であり、当時のアメリカの市場開放の働きかけもあり、1970年から徐々に日本の建築基準法の中で位置づけられて普及したものである。Conferenceの中では、日本のナイスグループの金物工法(Power Build工法)の紹介があった。ナイスはヨーロッパでの市場開拓にも力を入れているが、アメリカでもこの工法を武器にビジネスを展開していく戦略を持っているとのことであった。現在、日本では高層建築を可能にする技術として、CLT(積層集成板)の普及に熱が入っているが、木質ラーメン工法などで高い技術を持つ会社もある(注5)。こうした技術を「輸出」していくことこそが、真の国策ではないかと思われる。(後編に続く)