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仕事と介護の両立支援の取組とケアハラスメント対策

-育児・介護休業法改正への対応として-

2016/12/19
塚田 聡

改正育児・介護休業法及び男女雇用機会均等法が平成29年1月に施行される。今回の改正では、昨今問題となっている介護離職を防止し、仕事と介護の両立を可能とすることを目的に、介護関連の制度が拡充されている。加えて、いわゆるマタハラ・パタハラなどの防止措置を講じることが新設された。本稿では、改正法への対応としての、仕事と介護の両立支援の取組とケアハラスメント(以下、「ケアハラ」)対策について解説する。

改正育児・介護休業法及び男女雇用機会均等法の概要

今回の改正では、介護が必要な家族を抱える労働者が介護サービス等を十分に活用できるよう、介護休業や柔軟な働き方の制度を組み合わせて対応できる制度が構築されている。介護休業はもともと、仕事と介護を両立させるための体制を整えるための休業と位置づけられている。そこで、介護保険サービスを受けるなど両立体制が整った後、家族の介護をしながら仕事を継続する際に必要に応じて柔軟な働き方が選択できるよう、介護のための所定労働時間の短縮措置等は介護休業から切り離され、利用開始から3年の間で2回以上の利用が可能となり、介護のための所定外労働の免除(いわゆる残業免除)が、介護終了までの期間について請求することのできる権利として新設された。
 これまで、日常的な介護への対応として利用できる働き方の選択肢は、時間外労働の制限(注1)ならびに深夜業の制限に限られていた。今回の改正で柔軟な働き方の選択肢が増えたことは、個別事情の多い介護をしながら仕事を継続する上で、仕事と介護の両立をより可能とするものである。しかしながら、利用開始から最長3年間利用できる、あるいは介護終了までの期間にわたり請求可能という、長期にわたる利用が可能な制度内容に、困惑する企業の人事担当者も少なくないだろう。また、恒常的に長時間労働となっている職場では、制度利用がいつまで続くか分からない従業員を抱えることは、周囲の同僚の負担感を増大させることにもつながりかねない。今回の法改正を機に、従業員の仕事と介護の両立を支援する取組を着実に行っていくことが求められる。

図1 仕事と介護の両立支援制度の見直し

(出所)厚生労働省「仕事と介護の両立支援制度の見直し(平成28年改正法の概要)」

企業に求められる従業員の仕事と介護の両立支援への取組

厚生労働省では、企業に求められる従業員の仕事と介護の両立支援への取組として、「介護離職を予防するための仕事と介護の両立支援対応モデル」(注2)を構築、5つの取組を行うことを推奨している。5つの取組とは、「1.従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握」「2.制度設計・見直し」「3.介護に直面する前の従業員への支援」「4.介護に直面した従業員への支援」「5.働き方改革」である。5つの取組を一体的に行うことで、自社の状況や従業員のニーズに合った取組を展開し、従業員本人に対しては介護に向けた事前準備を行うこと、介護に直面しても仕事を続けるというイメージを持ってもらうことにつなげることができる。
 今回の法改正への対応として、「3.介護に直面する前の従業員への支援」における両立支援制度の周知がポイントとなる。改正後の新しい両立支援制度を周知する際には、介護休業とは仕事と介護を両立させるための体制を整えるための休業であるなど、制度の内容のみならず、制度の趣旨や上手な制度の利用方法を合わせて周知することが望ましい。従業員に対しては、制度は必要に応じて利用できること、ただし、制度をフルに利用することが自身にとって最も望ましい両立のあり方とは限らないことを伝え、自身のキャリアと介護をうまく両立するよう、どのように制度を上手に利用するか、従業員本人がしっかりと考えるよう促すことが重要である。

図2 「仕事と介護の両立支援対応モデル」

(出所)厚生労働省「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」(平成27年度)

個々の従業員の状況に応じた支援の取組~「介護支援プラン」(注3)とケアハラ対策

介護に直面した従業員が生じた際、仕事と介護を両立しながら安心して働くことができるよう、個々の従業員のニーズに応じた両立支援の取組を行うことが必要となる。厚生労働省が「両立支援対応モデル」における「4.介護に直面した従業員への支援」として策定した「介護支援プラン」は、介護に直面した従業員を対象として、多様な介護の状況を踏まえ、個々に両立支援の取組を行うためのプランである。
 「介護支援プラン」では、介護に直面した従業員への支援として、介護に直面し、働き方の調整を行う必要が生じた段階(「相談・調整期」)から、仕事と介護の両立の体制を築く段階(「両立体制構築期」)、その後両立を図りながら就業を継続し、介護の状況により必要があれば両立の方法を見直す段階(「両立期」)の3つの段階に分かれた支援が提示されている。ただし、介護のプロセスは一様ではないため、状況に応じた支援が求められる。そこで、「介護支援プラン」を作成する際には、対象従業員本人と上司・人事担当者でコミュニケーションを図るような活用方法が示されている。
 今回の法改正への対応という点からも、「介護支援プラン」の活用が可能である。これまで、育児・介護休業法及び男女雇用機会均等法では、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いが禁止されていた。今回の改正では、この点に加え、上司・同僚からの、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする嫌がらせ等(いわゆるマタハラ・パタハラ・ケアハラ等)を防止する措置を講じることが、事業主に義務付けられた。具体的には、「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」「職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応」「職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」を実施すること、つまり、研修・講習を行い周知・啓発を行うことや、相談窓口を設置することなどが求められている。この内、最後の措置は、業務体制の整備など、企業や対象従業員の実情に応じて必要な措置を講じることでハラスメントを防止することが求められている。「介護支援プラン」を活用することで、適切に介護に関する状況が把握でき、職場内での配慮や業務体制の整備を行うことが可能となる。ハラスメント防止にはコミュニケーションを図ることが重要であり、「介護支援プラン」はケアハラ防止につながるコミュニケーション・ツールと位置づけることも可能だろう。
 職場におけるケアハラを含むハラスメント対策は、従業員の意識の問題でもあり、対応は容易ではない。しかしながら、日ごろから良好なコミュニケーションが図られ、信頼関係が築かれている職場では、生じる可能性の低い問題である。とかく介護というテーマでは、プライベートなことであり話題にすることを躊躇しがちだが、業務運営上、必要なことはしっかりとコミュニケーションを図ることが、本人と上司・周囲の間での誤解から生じるケアハラを防ぐことにもつながるはずである。

図3 介護に直面した従業員への「仕事と介護の両立支援」全体概要

(出所)厚生労働省「「介護支援プラン」策定マニュアル」(平成28年度)

(注1) 労働者が請求した場合、事業主は制限時間(1ヶ月について24時間、1年について150時間)を超えて労働時間を延長することはできない。
(注2) 詳細については、以下のURLを参照されたい。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
(注3) 詳細については、以下のURLを参照されたい。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
共生・社会政策部
主任研究員
塚田 聡

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