経営戦略
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基礎自治体・地域金融機関への浸透がカギ
はじめに、国の知的財産にかかる計画や施策の体系についてふれたい。知的財産基本法に基づき、2003年3月に内閣に知的財産戦略本部1が設置され、国全体の知的財産推進計画を毎年、策定している。最新版は「知的財産推進計画2022」2で、2022年6月に公表された。計画の副題は、「意欲ある個人・プレイヤーが社会の知財・無形資産をフル活用できる経済社会への変革」となっている。
この計画の中で、「中小企業/地方(地域)の知財活用支援」施策の方向性は以下の通りである。
(施策の方向性)
計画から施策の方向性の全文を引用した理由は、地域産業施策や地域産業振興にかかわる行政職員、産業支援機関スタッフの多くが、この内容について認知や理解が不十分なのではないか、という想いからである。数多くの産業支援施策が存在する中で、またコロナ禍において、緊急性が高い事業に優先して取り組まざるを得ないといった事情はあるものの、「知的財産推進計画2022」では、コロナ後のデジタル・グリーン成長による経済回復戦略を進める中で、「企業の知財・無形資産の投資・活用が鍵」であると述べている。国を挙げて、地域を挙げて、知財や無形資産の活用に取り組むことが重要であることを改めて確認しておきたい。さらに付け加えると、知的財産基本法には地方公共団体の責務に関する記述がある。地方公共団体は自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有していることも、ここで改めて認識しておきたい。
国の「知的財産推進計画」とともに、その地域版ともいうべき「地域知財活性化行動計画」は、2022年度までを計画期間とする「第2次地域知財活性化行動計画」4が、2020年7月に特許庁によって策定されている。この計画は、特許庁、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が地方自治体等の関係主体と連携して実施する行動計画として位置づけられている。
この計画の中では、計画の推進体制について言及しており、(1)特許庁、(2)知財室5、(3)INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)、(4)自治体が計画推進において主体的な役割を果たすことになっている。そして、「上述した4つの関係主体が第2次行動計画を推進し、さらに、各地域の支援機関と連携して支援に取り組むことにより地域中小企業支援を推進することが期待される」としている。
具体的な地域知財支援方針として、3つの方針が掲げられ、一例をあげると、「基本方針1:ターゲットを意識した地域・中小企業支援の実施」という項目があり、先に述べた4つの主体に加えて、各種支援機関が連携しながら、地域・中小企業を支援する構図が示されている。
【図表1】企業の知財にかかるステージと支援メニューの例
(出典)「第2次地域知財活性化行動計画」(特許庁)
図表1に示されているように、知財室、INPIT、自治体や支援機関が各種支援メニューを活用しながら、企業支援を行い、支援した企業の「知財活用度」を高めていくことを狙いとしている。また、「地域知財活性化行動計画」の中でも、「自治体は、産業振興ビジョン等に記載された計画に基づくターゲットに応じた自主的な施策を、知財室や窓口と連携して取り組む」と明記されており、同計画の別添資料として、都道府県ごとに、産業振興ビジョン等の計画の中で、企業の知財に対する支援に関連する内容が列挙されている。つまり、都道府県においては、同計画の中で特許庁と施策の方向性や目標についての認識を共有している状況にある。
自治体(県・市町村)の産業政策立案・中小企業支援とともに、知財を通じた地域の中小企業支援の実務に携わっている立場からすると、同じ自治体ではあっても、都道府県に比べて一般に規模が小さな基礎自治体である市町村においては、知財を通じた地域の中小企業支援という国の施策の活用度合いにバラつきがあるように見える。
こうした状況の背景にあるのは、「知財」に対するイメージではないかと考えている。
一般に「知財」といえば、まずは特許、あるいはそれ以外の産業財産権である商標、意匠、実用新案を思い浮かべると思うが、INPITが全都道府県に設置し、中小企業等の事業を知財の観点から支援している「知財総合支援窓口」でカバーしている「知財」は広範囲にわたっている。具体的な対象範囲は、特許のように権利化されているものだけではなく、ノウハウ・顧客情報などの営業秘密、取引契約、事業承継、ブランドなど、企業経営の中で必要な不可欠な要素を数多く含んでいる。
つまり、中小企業支援に必要な多くの要素が「知財」には含まれているのだが、そのことが基礎自治体の産業振興部門には十分に理解されていない可能性がある。
これと同様に、日常的に企業訪問を行い、金融面から地域の中小企業を支える、地方銀行・信用金庫・信用組合などの地域金融機関職員についても、「知財」に対する認識は従来の「知財=特許」となっている可能性がある。
地域の中小企業にとってより身近な存在である、市町村や地域金融機関の職員の「知財」に対する認識が広がれば、知財総合支援窓口を活用しようという機運が高まるのではないだろうか。
これは、市町村や地域金融機関にとってもメリットがある。例えば、大規模な市町村を除いたほとんどの市町村においては、知財を通じた地域の中小企業支援に予算を充当することは、政策の優先順位を考えると難しいのが実情であろう。したがって、弁理士・弁護士・中小企業診断士・デザイナーなどの専門家を無料で企業へ派遣する予算を確保することは容易ではないと思われる。
ところが、「知財総合支援窓口」では、企業との面談結果を受けて、こうした専門家の企業への派遣が必要と判断すれば、企業側の金銭負担ゼロで専門家が企業を訪問し、専門的な見地から企業に対してアドバイスすることができる。つまり、市町村の産業振興部門の担当者の立場で考えてみれば、「知財総合支援窓口」を使って、市町村内の中小企業支援を「予算ゼロ」で実施することも可能なのである。
また、地域金融機関にとっても、無料で専門家を派遣できるなど、多様な支援メニューを有する知財総合支援窓口の利用を取引先に促すことは、メリットはあってもデメリットは少ないはずである。なお、地域金融機関に関しては、知財総合支援窓口と連携協定を結ぶなど、積極的に「窓口」を活用している事例もあることを補足しておきたい。長野県窓口6では、5つの県内金融機関との包括連携協定による支援を実施しており、成果を上げている。
繰り返しになるが、「知的財産推進計画2022」では、コロナ後のデジタル・グリーン成長による経済回復戦略を進める中で、「企業の知財・無形資産の投資・活用が鍵」であると述べている。
まずは、地域に多く存在する中小企業が自らの知財・無形資産の価値に気づくことが重要であるが、それらの地域の中小企業を支援する立場の基礎自治体、地域金融機関も、「企業の知財・無形資産の投資・活用が鍵」であることをふまえて、知財総合支援窓口を活用いただきたい。
2 「知的財産推進計画2022」(知的財産戦略本部)
3 中小企業・スタートアップの知財活用アクションプラン(中小企業庁&特許庁・INPIT)
4 「第2次地域知財活性化行動計画」(特許庁)
5 経済産業省が地域ブロックごとに設置している経済産業局内に「知財室」があり、特許庁から専門的知識を有する審査官が室長として派遣されている。
6 金融機関との包括連携協定による支援(INPIT知財総合支援窓口 長野県ポータル)