農林業振興に生物多様性保全はなぜ必要か?
~生物多様性特集(1)~
2011/08/25
地球全体で生物多様性の保全を実現するためには、自然保護区域ではない森林や農地など、農林業活動が行われているエリアが重要であり、農林業活動の目的や手段を、生物多様性保全と調和するものに転換していく必要がある。
しかし、現場の農林業経営者や技術者に生物多様性保全の重要性や意義を説明できる説得的な言説は多くないため、現場感覚としても納得感のある「現実的な」説明が必要である。本レポートでは、「農林業振興に生物多様性保全が必要な」3つの理由を仮説として提示して、説明を試みることにした。
【概 要】
- 理由(1)「法律や制度が変わりつつあり、やむを得ないから」1993年の生物多様性条約の締結を受けて、農林業に関する各国の法律や制度が、「持続可能な利用」を目的としたものに変わり、農林業者は否応なしに対応を迫られている。
- 理由(2)「経営技術上のメリットがあるから」本来、農林業は自然資本・資源から生態系サービスを引き出す産業であり、生物の多様性が下支えする自然のメカニズムを上手に活用することができれば、結果的に低コストでの経営が可能になることが、示されつつある。
- 理由(3)「地域社会の生き残りに、戦略上必要だから」グローバル化が進む世界で、コストのみで競争を行なえば、日本の農林業に勝ち目はない。そこで、農業経営の位置づけを、生物多様性保全・生態系サービスの持続可能な利用に転換し、この活動を社会で支えていく仕込みが必要である。
- 最後に、このような枠組みを前提として受入れ、農林業振興に生物多様性保全を戦略的に組み込んでいくためには、農林業経営者や技術者に、生態学・環境科学などの知見を付与して人材を育成し、農地・森林から生態系サービスを高度に引き出すことのできる技術者としての位置づけていくことが必要である。